子どものためのおはなし
  • Home
  • 出まかせ 日本むかしばなし
  • おはなし会のおはなし
  • ブログ
  • エッセイ

おしまいのお話

5/18/2015

0 Comments

 
このお話のはじまりは、ずいぶんむかしむかしのことです。そのころ、おしまいとはじまりは、たいへん仲のよい友だちでした。はじまりがあれば、いつでもおしまいがあります。おしまいがきたら、つぎにかならずはじまりがやってきます。そんなふうに、二人はいつもつれだっていました。
ところがあるとき、はじまりがおしまいにいいました。
「きみとぼくは、いつもいっしょにいるけれど、どっちがえらいと思うかい?」
「ええっと」
おしまいは返事にこまりました。それまで、そんなことを考えたこともなかったからです。
「どっちがえらいのか、わからないや」
「わからないなら考えようよ」
「でも、どうして?」
「だって、二人くらべたら、どっちかがえらいに決まってるじゃない」
「そうかなあ」
「じゃあ聞くけど、ぼうが二本あったら、どっちが長い?」
「そりゃあ、くらべてみればわかるよ」
「だろう。どっちかがかならず長いんだよ。どっちが長いかわからないなんてことはないよね。じゃあ、小石が二つあったら、どっちが重い?」
「そりゃあ、てんびんにのせてみればわかるだろう」
「ね。どっちが重いか、ちゃあんとくらべればわかる。どっちが重いかわからないなんてことはないよね。じゃあ、ひとが二人いたら、どっちがえらい?」
「そりゃあ、くらべてみればわかるだろう」
「だったら、きみとぼくと、どっちがえらい?」
おしまいは、すっかりこまってしまいました。ぼうの長さをくらべるのはかんたんですし、小石の重さだって、てんびんがあればすぐにわかります。けれど、人をくらべるにはどうしたらいいのでしょう。
「じゃあ、こう考えてみようよ」
はじまりはいいました。
「きみとぼくは、どっちがさいしょにくるかい?」
「そりゃあ、きみだろう」
おしまいは答えました。
「じゃあ、ぼくがこなければ、きみもやってくることはできないわけだ」
「そうだよ」
おしまいは、なにをいまさらいうんだと思いました。
「ぼくは、きみがいなくったってどこにでもいける」
「そうだね」
「だけど、きみはぼくがいったところしかいけない」
「そうだね」
「じゃあ、どっちがえらい?」
おしまいはこまってしまいました。そして、しぶしぶ答えました。
「そういうことなら、きみだろうな」
「うん、ぼくもそう思う」
はじまりは、きっぱりといいました。
「だから、きみはぼくのけらいにならなきゃいけないよ」
おしまいは、びっくりしました。
「どうして?」
「だって、ぼくのほうがえらいんだから」

それからというもの、はじまりは、なにかにつけて、おしまいをけらいのようにあつかうようになりました。いままでのようにいっしょに遊びにいっても、まえのようにはおもしろくありません。そこで、おしまいは、だんだんとはじまりといっしょにいるのがいやになってきました。
そんなことがあってから、もうずいぶんとたちました。いまでは、おしまいは、はじまりのそばにはできるだけ近よらないようにしています。ですから、このごろでは、はじまりからおしまいまで、ずいぶんと長い時間がかかるようになったのです。
ですから、このお話も、はじまりからおしまいまで、ずいぶんと長くかかってしまうのです。

おしまい。
(初出:March 21, 2009)
0 Comments



Leave a Reply.

    作者について

    私の家は保育園のすぐ近く、そして薪ストーブがあります。そこで、冬季限定のお楽しみとして、薪ストーブの火を囲んでのおはなし会に年長児さんを招待することになりました。そのおはなし会で使ったネタを、ここで紹介していきます。

    過去エントリ

    December 2016
    June 2015
    May 2015

    カテゴリ

    All
    アメリカン
    はるかむかし
    ほんのちょっとむかし
    和テイスト
    ヨーロッパ調

    RSS Feed

Powered by Create your own unique website with customizable templates.