このお話のはじまりは、ずいぶんむかしむかしのことです。そのころ、おしまいとはじまりは、たいへん仲のよい友だちでした。はじまりがあれば、いつでもおしまいがあります。おしまいがきたら、つぎにかならずはじまりがやってきます。そんなふうに、二人はいつもつれだっていました。
ところがあるとき、はじまりがおしまいにいいました。
「きみとぼくは、いつもいっしょにいるけれど、どっちがえらいと思うかい?」
「ええっと」
おしまいは返事にこまりました。それまで、そんなことを考えたこともなかったからです。
「どっちがえらいのか、わからないや」
「わからないなら考えようよ」
「でも、どうして?」
「だって、二人くらべたら、どっちかがえらいに決まってるじゃない」
「そうかなあ」
「じゃあ聞くけど、ぼうが二本あったら、どっちが長い?」
「そりゃあ、くらべてみればわかるよ」
「だろう。どっちかがかならず長いんだよ。どっちが長いかわからないなんてことはないよね。じゃあ、小石が二つあったら、どっちが重い?」
「そりゃあ、てんびんにのせてみればわかるだろう」
「ね。どっちが重いか、ちゃあんとくらべればわかる。どっちが重いかわからないなんてことはないよね。じゃあ、ひとが二人いたら、どっちがえらい?」
「そりゃあ、くらべてみればわかるだろう」
「だったら、きみとぼくと、どっちがえらい?」
おしまいは、すっかりこまってしまいました。ぼうの長さをくらべるのはかんたんですし、小石の重さだって、てんびんがあればすぐにわかります。けれど、人をくらべるにはどうしたらいいのでしょう。
「じゃあ、こう考えてみようよ」
はじまりはいいました。
「きみとぼくは、どっちがさいしょにくるかい?」
「そりゃあ、きみだろう」
おしまいは答えました。
「じゃあ、ぼくがこなければ、きみもやってくることはできないわけだ」
「そうだよ」
おしまいは、なにをいまさらいうんだと思いました。
「ぼくは、きみがいなくったってどこにでもいける」
「そうだね」
「だけど、きみはぼくがいったところしかいけない」
「そうだね」
「じゃあ、どっちがえらい?」
おしまいはこまってしまいました。そして、しぶしぶ答えました。
「そういうことなら、きみだろうな」
「うん、ぼくもそう思う」
はじまりは、きっぱりといいました。
「だから、きみはぼくのけらいにならなきゃいけないよ」
おしまいは、びっくりしました。
「どうして?」
「だって、ぼくのほうがえらいんだから」
それからというもの、はじまりは、なにかにつけて、おしまいをけらいのようにあつかうようになりました。いままでのようにいっしょに遊びにいっても、まえのようにはおもしろくありません。そこで、おしまいは、だんだんとはじまりといっしょにいるのがいやになってきました。
そんなことがあってから、もうずいぶんとたちました。いまでは、おしまいは、はじまりのそばにはできるだけ近よらないようにしています。ですから、このごろでは、はじまりからおしまいまで、ずいぶんと長い時間がかかるようになったのです。
ですから、このお話も、はじまりからおしまいまで、ずいぶんと長くかかってしまうのです。
おしまい。
ところがあるとき、はじまりがおしまいにいいました。
「きみとぼくは、いつもいっしょにいるけれど、どっちがえらいと思うかい?」
「ええっと」
おしまいは返事にこまりました。それまで、そんなことを考えたこともなかったからです。
「どっちがえらいのか、わからないや」
「わからないなら考えようよ」
「でも、どうして?」
「だって、二人くらべたら、どっちかがえらいに決まってるじゃない」
「そうかなあ」
「じゃあ聞くけど、ぼうが二本あったら、どっちが長い?」
「そりゃあ、くらべてみればわかるよ」
「だろう。どっちかがかならず長いんだよ。どっちが長いかわからないなんてことはないよね。じゃあ、小石が二つあったら、どっちが重い?」
「そりゃあ、てんびんにのせてみればわかるだろう」
「ね。どっちが重いか、ちゃあんとくらべればわかる。どっちが重いかわからないなんてことはないよね。じゃあ、ひとが二人いたら、どっちがえらい?」
「そりゃあ、くらべてみればわかるだろう」
「だったら、きみとぼくと、どっちがえらい?」
おしまいは、すっかりこまってしまいました。ぼうの長さをくらべるのはかんたんですし、小石の重さだって、てんびんがあればすぐにわかります。けれど、人をくらべるにはどうしたらいいのでしょう。
「じゃあ、こう考えてみようよ」
はじまりはいいました。
「きみとぼくは、どっちがさいしょにくるかい?」
「そりゃあ、きみだろう」
おしまいは答えました。
「じゃあ、ぼくがこなければ、きみもやってくることはできないわけだ」
「そうだよ」
おしまいは、なにをいまさらいうんだと思いました。
「ぼくは、きみがいなくったってどこにでもいける」
「そうだね」
「だけど、きみはぼくがいったところしかいけない」
「そうだね」
「じゃあ、どっちがえらい?」
おしまいはこまってしまいました。そして、しぶしぶ答えました。
「そういうことなら、きみだろうな」
「うん、ぼくもそう思う」
はじまりは、きっぱりといいました。
「だから、きみはぼくのけらいにならなきゃいけないよ」
おしまいは、びっくりしました。
「どうして?」
「だって、ぼくのほうがえらいんだから」
それからというもの、はじまりは、なにかにつけて、おしまいをけらいのようにあつかうようになりました。いままでのようにいっしょに遊びにいっても、まえのようにはおもしろくありません。そこで、おしまいは、だんだんとはじまりといっしょにいるのがいやになってきました。
そんなことがあってから、もうずいぶんとたちました。いまでは、おしまいは、はじまりのそばにはできるだけ近よらないようにしています。ですから、このごろでは、はじまりからおしまいまで、ずいぶんと長い時間がかかるようになったのです。
ですから、このお話も、はじまりからおしまいまで、ずいぶんと長くかかってしまうのです。
おしまい。
(初出:March 21, 2009)