子どものためのおはなし
  • Home
  • 出まかせ 日本むかしばなし
  • おはなし会のおはなし
  • ブログ
  • エッセイ

シャワー

5/20/2015

0 Comments

 
 そらくんは、おふろのなかでたいくつしていました。だって、おふろのなかにはテレビもゲームもありません。おもちゃだって、おふろ用のつまらないものだけです。それなのに、じっと、お湯につかっていなければなりません。「からだがあたたまるまで、出ちゃだめだよ。いつだってそう言われます。からだがあたたまるまでって、いつなんでしょう。おふろにはいる前から、からだはホカホカとあたたかいのに、これいじょうあたためたら、とけてしまうんじゃないでしょうか。
じっとしていると、うごきたくなります。すわっていると、走りだしたくなります。どこまでもつづく広い野原を走りたくなります。そんなふうに走っていくと、目の前に雨がふりはじめました。
「せっけんがかかるから、ひっこんでなさい」
雨つぶに手をのばしたそらくんにむかって、おとうさんが言いました。おとうさんには、せなかに目がついているんでしょうか。ふりむきもせず、せっけんのあわをたてながら、そらくんにむかって言うのです。
「ほら、かたまでつからないと、からだがひえるよ」
そらくんは、お湯の中にもどって、シャワーの雨つぶを見ていました。大つぶの雨は、まるでジャングルの中にふる雨のようです。まっ白なゆげが、あたりをみたします。ゆげのおくそこに、なにかがうごいている──、そらくんは、はっとしました。
「あれは、なんだろう」
気をつけて、目をこらします。ゆげのおくから、ゆっくりと黒いかげがやってきます。
「ゴリラだ!」
そらくんは、びっくりしました。なにしろ、そらくんははだかです。はだかのままでゴリラに出あったら、だれだってびっくりするはずです。
「だいじょうぶ。わたしもはだかだよ」
ゴリラは、やさしく言いました。
「ごめんなさい」
そらくんは、わけもわからずに、あやまりました。
「いいんだよ。きみのせいじゃない」
ゴリラは、そう言って、ふりかえりました。
「だれのせいでもない。わたしたちは、みんななかまなんだから」
「どういうこと?」
そらくんには、ゴリラがなにを言っているのかわかりませんでした。
「おいで」
ゴリラは言って、そらくんにせなかをむけました。そらくんは、あわててゴリラのあとをおいかけました。まわりを、まっ白なもやがつつみ、なにひとつ見えなくなりました。

ゴリラは、さすがにジャングルの王さまです。いくらそらくんががんばっておいかけても、どんどんともやの中にきえていきます。そのすがたを見うしないかけたとき、そらくんの目の前で、バサバサッとなにかがうごきました。そらくんは、おどろいて目をとじました。その目をそっとひらくと、そこにはあざやかな色のはねをつけた大きな鳥が立っていました。鳥は、まんまるな目で、そらくんをまっすぐに見ています。
「ごめんなさい」
そらくんは、あわてて言いました。だって、この鳥のじゃまをしてしまったのかもしれません。
「あなたがわるいのじゃない」
鳥は言いました。
「あなたがしたことは、ぜんぶ、あなたにかえっていくのだから」
「どういうこと?」
そらくんには、鳥がなにを言いたいのかわかりません。こまっていると、いきなり鳥がはばたきました。
「さあ、おいで」
そう言って、鳥は白いもやの中にとんでいってしまいました。

ゴリラも鳥もいなくなって、そらくんは、どうしていいかわかりません。こまったなあと思ってふりかえったら、足もとに子犬ほどの大きさのけものが立っていました。かたちは動物園で見たことがある、しかにそっくりです。
「ごめんね」
そらくんは、そう言ってしゃがみこみました。だって、ふりかえったひょうしに、この小さなしかをけとばしそうになったからです。
「いいの」
しかは、言いました。
「あたし、けとばされるのには、なれてるから」
「でも、だからって、けとばされたくはないよね」
「うん。だから、いつもうまくにげるの。あたし、にげるのがじょうずなの」
そらくんは、やっぱりなんとこたえていいのかわかりませんでした。すると、しかは、ぴょんととびあがりました。
「さあ、こっちよ」
そらくんは、こんどこそおくれないように、しかのあとをいっしょうけんめいおいかけました。足もとにからまるつたを気にしながら、ころばないように走りました。すると、だんだんむこうに、いくつものかげが見えてきました。

そこは、森の中の小さな空き地でした。さっきのゴリラがいます。あの美しい鳥もいます。それだけではありません。もっと小さいのや中くらいの大きさの鳥がたくさんいます。どの鳥も、それぞれにあざやかなはねの色をしています。その色が、白いもやの中でやわらかく光っています。
鳥だけではありません。木の上にいる動物はねこでしょうか。いいえ、ねこよりももっとすばしっこそうです。その近くには、さるのなかまがいます。こうやってみると、ゴリラがどれほど大きいのかがよくわかります。りすのような小さなけものもいます。地面からは、ねずみのような顔が見えています。ひょっとしたらもぐらのなかまなのかもしれません。その近くには、かえるがいます。虫たちがとびたちました。
森の中は、にぎやかです。なんだかパーティーでもはじまるような、うきうきした気分がながれています。
「さあ、みんなでこの雨をよろこぼう」
ゴリラが言いました。そして、大きくむねをふくらませ、かたくにぎりしめたこぶしで、そのむねをボンボコぼんぼことうちはじめました。

そらくんは、こんなにわくわくしたのは、ほんとうにひさしぶりだと思いました。だから、さけばずにいられませんでした。
「ぼくも、なかまにいれて!」
そのときです。雨が急にとまりました。みんなは、空を見上げました。ぽつり、ぽつりと、なごりのような雨つぶがおちてきます。けれど、さっきまでのざあざあふってくる雨は、もうそこにはありません。
ゆっくりと、ゴリラがせなかをむけました。あの美しい大きな鳥が、つばさを大きく広げました。ねこのようなチーターが(そう、あれはチーターでしょう)、ねこのように大きなあくびをしました。気がつくと、虫たちも、小鳥たちも、りすやねずみも、小さなしかも、どこかにきえていました。
「ねえ、まって!」
そらくんは、ゴリラをおいかけました。けれど、ゴリラはどんどん白いもやの中にきえていきます。そらくんは、あとをおっかけて走りました。すぐにあたりは、まっ白になって、なにも見えなくなりました。

それでも走りつづけたそらくんは、むこうのほうに赤茶色っぽいかげが見えるのに気がつきました。ゴリラの毛なみではありません。もっとつるんとしたものです。岩なのかもしれません。その岩で、このジャングルはいきどまるのかもしれません。
まっすぐすすんだそらくんは、その岩に両手をどしんとついて止まりました。岩だと思ったのはやわらかくて、そらくんはびっくりしました。
「こら、びっくりするじゃないか」
おとうさんの声がしました。ゆげのむこうで、おとうさんの目がやわらかい光をはねかえしました。
「さあ、そらもあらうぞ」
おとうさんはそう言って、シャワーのせんをひねりました。
やんでいた雨がふりはじめて、そらくんはまた、しあわせな気もちになりました。きっとゴリラも、鳥たちも、ジャングルのなかまはみんな、よろこんでいることでしょう。

0 Comments

行かず池の話

5/19/2015

0 Comments

 
むかし、森の奥に「いかず池」という小さな池がありました。なぜこんな名前がついたのでしょう。それは、この池に行こうと思っても、ぜったいにたどり着けないからです。森の奥、沢の枝分かれした先にあることは、むらの人にはわかっています。けれど、「たしかこっちだった」と山を踏み分けてたどっても、そこに池はないのです。
ところが、行こうと思わずに森の中を歩いていると、ふいっと目の前に池があらわれます。しんっとしずまりかえった水のおもてには、さざなみひとつたっていません。浅い水ぎわには、あしによくにた草がたくさんはえています。木立に隠れてしまうほどの小さな池ですから、たしかに見落としてもふしぎはないのかもしれません。それでも、行こうと思っていないときにかぎって見つかるのは、なんだかきみょうです。
そんなわけで、むらの人はいつのころからかこの池のことを「いかず池」と呼ぶようになったのでしょう。もっとも、じっさいにこの池に行ったことがあるのは、ほんのわずかの人びとだけでした。ふつうのむら人がちょっとした山仕事ではいる森よりは、ずいぶんと奥まったところにあったからです。大物をねらう山猟師や、腕自慢の木こりぐらいしかはいらない奥山です。だから、ほとんどの人にとっては、いかず池はその名前のとおり、だれも行かない池でした。

この池には、たどり着けないということのほかに、もっとふしぎな言い伝えがありました。それは、この池にはえている草をせんじて飲めば、どんな重い病でもたちどころになおるというものです。もちろん、たしかめた人はいません。なぜなら、病気になってからこの池の草をほしいと思っても、その草を手に入れることなどできないからです。草を手に入れたいと思って池をさがしても、池はけっして出てきません。いかず池だからです。池は、探していないときしかたどり着けない場所にあるからです。
そのむかし、こんな言い伝えができるより前のこと、ひとりの木こりが山仕事の帰り道に、この池を通りました。木こりには長く病の床についた母親がおりましたが、まずしい木こりは、ろくに母親にうまいものも食べさせられません。山仕事の帰り道に食べられそうな野の草をつんで、まずしい菜の足しにするほどです。この日もそうでした。池のはたにはえているあしによくにた草の先の方がやわらかそうに見えたので、母親に食べさせてやろうと持ち帰ったわけです。
この草を食べた母親は、とたんに元気になりました。だから、「いかず池の草は万病にきく」という言い伝えが生まれたのです。ところがそれ以後、この話をきいて草をとりに行ったむら人は、ひとり残らず池を見つけられずに帰ってきました。たまに何の気もなく池を見つけた人がむらにおりてくると、むら人はとりかこむようにして、「草をとってこなかったか?」とたずねます。けれど、そういう人は草がほしくて池に行ったわけではありませんから、たいていは手ぶらです。ごくごくまれに、言い伝えを思い出して、たまたま見つけた池で草をつんでくる人がいます。そういう草は、めずらしい薬のもとになるということで、たいへんよい値段でとりひきされるのでした。

あるとき、頭のいい男が、この草の話を聞きつけました。わざわざこの山奥のむらまでやってくると、金をおしまずに、わずかの草を買い集めました。そして、それをまちにもっていくと、病に苦しむ人びとに飲ませ、ききめをたしかめました。たしかに、きいたこともないほどよくきく薬のようです。男はほくそえみました。そして、あちこちの金持ちをまわってお金をかき集めました。借りられるだけのお金を、ありとあらゆる方法を使って、せいいっぱいに借りました。
そして、そのお金をもって、また山奥のむらにやってきました。そして、そのむらから奥の山すべてを、その金で買いとると言ったのです。
むら人は、考えこみました。けれど、お金はやっぱりほしいのです。一生かかっても目にすることのできないような大金が、ちょっと紙に名前を書くだけで手に入るのです。ほとんどの人が、みなで分けあってもってきた森を売りわたすことにさんせいしました。

頭のいい男は、森を買ってしまうと、さっそくむら人たちを人足にやとって、森の木を切りはじめました。男の考えはこうです。たしかに、いかず池は、ふつうにさがしても出てこないのだろう。だったら、かくれがをなくしてしまえばいい。森の木をぜんぶ切ってしまえば、まるはだかの山のどこかに、池が出てくるはずです。そうやって池を見つけてしまえば、あとはそこにはえている草を売り払って、大儲けができるのです。
森の木はどんどん切られ、山は地はだをむきだしにしていきました。そしてついに、山のしゃめんに、ぽつりと小さな池がすがたをあらわしました。

頭のいい男は、さっそく、カマを手にして草をとりに出かけました。けれど、なんということでしょう。森がなくなってしまったせいで、池の水はすっかりひあがってしまっていました。そして、そこにはえていた草は、どこにもなくなってしまっていました。
こうして、いかず池も、そこにはえた草も、そして頭のいい男も、みんな消えてしまったということです。
(初出:November 18, 2009)
0 Comments

豚と猪

5/18/2015

0 Comments

 
ある田舎の豚小屋に、たくさんの豚が飼われていました。ある夜、一匹の猪が小屋のそばで土をほじくり返していました。皆さんはご存じないかもしれませんが、猪と豚は、同じ動物なんですよ。人間に飼い慣らされた猪が豚というわけです。もちろん、長い間にずいぶんと見かけも変わってしまっていますけれど。
さて、小屋の中の一匹の豚が猪に気づいて言いました。
「君、そんなところにいたら危ないぞ。人間に見つかったら、撃ち殺されてしまう」
猪は馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、あいかわらず土をほじくります。
「君のような危ない生き方を、ぼくはわからない。食べ物がなくなれば飢え死にするんだしね。ここは安全だよ。餌は毎日飽きるほど食べさせてもらえる。衛生的で、病気にもならない。薬だってもらえるんだ。逃げ隠れせず、のんびり暮らせるんだよ」
猪は、聞いているのか聞いていないのか、やっぱり土の中を探しています。きっと、食べられる木の根っ子か、それとも土の中の虫けらを探しているのでしょう。
「ぼくはねえ、こっちにいて幸せだよ。そして、大きく強くなったら、トサツジョウってところに行くんだ。そしたらもっとすばらしいことがまっているって話だよ」
猪は、哀れんだように豚を見て言いかけました。
「そのトサツジョウなんだけれど…」
そのとき、小屋の向こうで懐中電灯が光りました。猪は一声小さくうなると、闇の中に駆け込みました。やがて車の音が聞こえ、遠くから銃声がひびきました。豚たちは、息をひそめてそのようすを聞いていましたが、すぐにそんなことも忘れたように餌を食べ始めました。ただ、一匹の子豚が、いつまでも闇の中を見つめていました。
0 Comments
<<Previous

    作者について

    私の家は保育園のすぐ近く、そして薪ストーブがあります。そこで、冬季限定のお楽しみとして、薪ストーブの火を囲んでのおはなし会に年長児さんを招待することになりました。そのおはなし会で使ったネタを、ここで紹介していきます。

    過去エントリ

    December 2016
    June 2015
    May 2015

    カテゴリ

    All
    アメリカン
    はるかむかし
    ほんのちょっとむかし
    和テイスト
    ヨーロッパ調

    RSS Feed

Powered by Create your own unique website with customizable templates.