子どものためのおはなし
  • Home
  • 出まかせ 日本むかしばなし
  • おはなし会のおはなし
  • ブログ
  • エッセイ

豚と猪

5/18/2015

0 Comments

 
ある田舎の豚小屋に、たくさんの豚が飼われていました。ある夜、一匹の猪が小屋のそばで土をほじくり返していました。皆さんはご存じないかもしれませんが、猪と豚は、同じ動物なんですよ。人間に飼い慣らされた猪が豚というわけです。もちろん、長い間にずいぶんと見かけも変わってしまっていますけれど。
さて、小屋の中の一匹の豚が猪に気づいて言いました。
「君、そんなところにいたら危ないぞ。人間に見つかったら、撃ち殺されてしまう」
猪は馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、あいかわらず土をほじくります。
「君のような危ない生き方を、ぼくはわからない。食べ物がなくなれば飢え死にするんだしね。ここは安全だよ。餌は毎日飽きるほど食べさせてもらえる。衛生的で、病気にもならない。薬だってもらえるんだ。逃げ隠れせず、のんびり暮らせるんだよ」
猪は、聞いているのか聞いていないのか、やっぱり土の中を探しています。きっと、食べられる木の根っ子か、それとも土の中の虫けらを探しているのでしょう。
「ぼくはねえ、こっちにいて幸せだよ。そして、大きく強くなったら、トサツジョウってところに行くんだ。そしたらもっとすばらしいことがまっているって話だよ」
猪は、哀れんだように豚を見て言いかけました。
「そのトサツジョウなんだけれど…」
そのとき、小屋の向こうで懐中電灯が光りました。猪は一声小さくうなると、闇の中に駆け込みました。やがて車の音が聞こえ、遠くから銃声がひびきました。豚たちは、息をひそめてそのようすを聞いていましたが、すぐにそんなことも忘れたように餌を食べ始めました。ただ、一匹の子豚が、いつまでも闇の中を見つめていました。
0 Comments



Leave a Reply.

    作者について

    私の家は保育園のすぐ近く、そして薪ストーブがあります。そこで、冬季限定のお楽しみとして、薪ストーブの火を囲んでのおはなし会に年長児さんを招待することになりました。そのおはなし会で使ったネタを、ここで紹介していきます。

    過去エントリ

    December 2016
    June 2015
    May 2015

    カテゴリ

    All
    アメリカン
    はるかむかし
    ほんのちょっとむかし
    和テイスト
    ヨーロッパ調

    RSS Feed

Powered by Create your own unique website with customizable templates.