おい、寝ろ。寝ろというとるのがわからんのか、坊主。これ、布団にはいらんか。布団にはいらんと、風邪をひく。風邪をひいたらおかあが困る。おかあ困れば糠漬けくさる。くさった糠漬け、だれにやろ。ここの坊主に食わそうか。ええい、おとなしく目をつぶれ。
じっとしろと言うとろうが。そないにごそごそ動いては、ふとんはがしがやってくるぞ。ふとんはがし。ふとんはがしを知らんかえ。ふとんはがしは化け物じゃ。夜中にこそっとやってくる。坊主の布団をはがすのよ。布団はがれた坊主はくしゃみ。鼻水出して、咳き込んで、あっという間に風邪をひく。風邪をひいたらおかあが困る。おかあ困ればお釜が焦げる。焦げた飯粒だれにやろ。ここの坊主に食わそうか。さ、さっさと目をつぶれ。
ふとんはがしなんぞこわくないって。こわいもこわくないも、あれはやっかいなもんよ。むかしむかしの話になるだが、庄屋どんとこ、ふとんはがしがとっついて。毎晩毎晩娘どんのふとんをはがす。あわれ娘どんは毎日咳き込んで、ろうがいとかいう病にかかったそうな。
それでもふとんはがしはようしゃはしない。毎晩来ては、ふとんをはがす。医者も呼んだし坊主も呼んだ。どんな薬を飲ませても、どれほどお経を唱えても、化けものどもには効き目がない。娘の病が進むのを、庄屋どんは悔しい思いで見ておった。
だから、ふとんはがしをあなどるでない。ふとんはがされりゃ風邪をひく。風邪ひきゃおかあが寝られねえ。おかあ寝られにゃおとうがくさる。くさったおとうをどうしてくれる。ささ、寝なせえ、坊主。
それで庄屋どんの娘はどうなったかって。病はどんどん重くなるし、庄屋どんは困って、だれでもふとんはがしを追い払ってくれたやつには娘をくれてやると、このように言うたとな。すると、あちこちから男どもがやってきて、やれまじないをするだの、刀をふりまわすだの、いろんなことをしたが、らちがあかねえ。
したらば、作男のところの末息子のやつが、それならおらがどうにかしましょうと、名乗りを上げた。みなはせせらと笑ったね。なにせ小作の末息子。吹けば飛ぶよな小僧っ子に、なにほどのこと、できようか。けれど、物は試しと、したらばおまえ、やってみろ、とな。
この末息子、まず娘のところに行き、ふとんはがしのことを尋ねおった。娘ごの言うことには、どんなにきつく、ふとんをかぶっても、ふとんはがしは必ずはがす。何枚布団をかぶっても、一枚一枚、必ずはがす。
これを聞いて、末息子は考えた。そして、まずは娘ごを観音様におこもりさせた。そうしておいて、娘ごの、床の上に玉ねぎひとつ、置いておいた。
夜中になって、やってきた。ふとんはがしが、やってきた。ふとんはがしは、はがしはじめた。玉ねぎの皮、はがしはじめた。一枚、一枚、はがしてみたが、どんなにはいでもはぎきれない。そのうち涙が一ツ、二ツ。これはとっても、がまんできん。ついに逃げ出すふとんはがし。どんどこ逃げ出すふとんはがし。やがて鳴くのは一番鶏。夜が白んで朝がきて、その夜からは、もう二度と、ふとんはがしはあらわれなんだ。
なあ、だから、坊主もそろそろ目をつぶれ。ふとんはがしが来る前に。
じっとしろと言うとろうが。そないにごそごそ動いては、ふとんはがしがやってくるぞ。ふとんはがし。ふとんはがしを知らんかえ。ふとんはがしは化け物じゃ。夜中にこそっとやってくる。坊主の布団をはがすのよ。布団はがれた坊主はくしゃみ。鼻水出して、咳き込んで、あっという間に風邪をひく。風邪をひいたらおかあが困る。おかあ困ればお釜が焦げる。焦げた飯粒だれにやろ。ここの坊主に食わそうか。さ、さっさと目をつぶれ。
ふとんはがしなんぞこわくないって。こわいもこわくないも、あれはやっかいなもんよ。むかしむかしの話になるだが、庄屋どんとこ、ふとんはがしがとっついて。毎晩毎晩娘どんのふとんをはがす。あわれ娘どんは毎日咳き込んで、ろうがいとかいう病にかかったそうな。
それでもふとんはがしはようしゃはしない。毎晩来ては、ふとんをはがす。医者も呼んだし坊主も呼んだ。どんな薬を飲ませても、どれほどお経を唱えても、化けものどもには効き目がない。娘の病が進むのを、庄屋どんは悔しい思いで見ておった。
だから、ふとんはがしをあなどるでない。ふとんはがされりゃ風邪をひく。風邪ひきゃおかあが寝られねえ。おかあ寝られにゃおとうがくさる。くさったおとうをどうしてくれる。ささ、寝なせえ、坊主。
それで庄屋どんの娘はどうなったかって。病はどんどん重くなるし、庄屋どんは困って、だれでもふとんはがしを追い払ってくれたやつには娘をくれてやると、このように言うたとな。すると、あちこちから男どもがやってきて、やれまじないをするだの、刀をふりまわすだの、いろんなことをしたが、らちがあかねえ。
したらば、作男のところの末息子のやつが、それならおらがどうにかしましょうと、名乗りを上げた。みなはせせらと笑ったね。なにせ小作の末息子。吹けば飛ぶよな小僧っ子に、なにほどのこと、できようか。けれど、物は試しと、したらばおまえ、やってみろ、とな。
この末息子、まず娘のところに行き、ふとんはがしのことを尋ねおった。娘ごの言うことには、どんなにきつく、ふとんをかぶっても、ふとんはがしは必ずはがす。何枚布団をかぶっても、一枚一枚、必ずはがす。
これを聞いて、末息子は考えた。そして、まずは娘ごを観音様におこもりさせた。そうしておいて、娘ごの、床の上に玉ねぎひとつ、置いておいた。
夜中になって、やってきた。ふとんはがしが、やってきた。ふとんはがしは、はがしはじめた。玉ねぎの皮、はがしはじめた。一枚、一枚、はがしてみたが、どんなにはいでもはぎきれない。そのうち涙が一ツ、二ツ。これはとっても、がまんできん。ついに逃げ出すふとんはがし。どんどこ逃げ出すふとんはがし。やがて鳴くのは一番鶏。夜が白んで朝がきて、その夜からは、もう二度と、ふとんはがしはあらわれなんだ。
なあ、だから、坊主もそろそろ目をつぶれ。ふとんはがしが来る前に。
(初出:March 23, 2009)