さてもあるとき、ねずみ殿のところで婿をとろうということになった。ところが、どうやって婿を迎えたらいいのかわからない。というのも、もともとねずみというのは子だくさんだ。娘も息子も、いくらでもいる。跡取りに困ることはない。ところがこのねずみの夫婦には、どういうわけかたったひとりの娘しかできなんだ。一人しかいない娘であるから、かしずくように大事に育て、箱に入れるように、珠のように、それはそれは細やかに育てた。そのかいあって娘は誰よりも美しく育ち、「この娘ならさぞかし立派な婿殿が迎えられるだろう」と、ねずみの夫婦は喜んだのであった。
ところが、どうやって婿を迎えたらいいのかわからない。いやいや、まずもって、誰を婿に迎えたらいいのかわからない。夫婦は一晩かけて、ちゅうちゅうと相談した。そして、同じことならば、この世でいちばん立派なお日様に婿に来ていただいたらどうだろうかと話が決まった。
そこで、ねずみの夫婦は、早起きをすると、東の空に登ったお日様に向かって手を合わせ、それから心をこめてお願いした。「この世でいちばん立派なお日様。どうか娘の婿になっていただけませんか」と。
昇りたてのお日様は、顔を赤らめた。やはり娘の美しさをご存じなのであろうかと、ねずみの夫婦は喜んだ。けれど、お日様はまぶしそうに目を細めて、こうおっしゃった。
「私なんかは、まだまだです。ほら、あの雲がもう直こちらに流れてくる。そしたら私は、たちまち隠れてしまうんだから」
なるほど、ねずみの夫婦が返事をするまもなく、厚い雲が流れてきて、お日様を隠してしまいました。ねずみの夫婦は、相談した。どうやら、この世でいちばんなのはお日様ではなく、あの雲様であるのかもしれないと。そこで、夫婦は雲様に向かって声を合わせた。
「あのお日様さえ隠してしまう、大きな雲様。雨をもたらしてくれる恵みの雲様。どうか娘の婿になっていただけませんか」と。
すると、雲は顔をしかめて笑った。そして、こうおっしゃった。
「私なんかは、弱いものですよ。ほら、風が吹いてきた。風さんにはかないません。とてもとても」
そして、あっという間にあの大きな雲は流れて、消えてしまった。
そこで、ねずみの夫婦は、また相談した。そして、風に向かって声を上げた。声は風に吹き飛ばされて、お互いほとんど聞こえないほどであったが、それでも風様には聞こえたのか、こんな返事が風にのって聞こえてきた。
「私は確かに強いかもしれないよ。でも、壁にはかなわない。どんなに吹いても、あの壁は越えられない。そんな弱い私が婿にふさわしいとは思わないね」
そこで夫婦は、風がどうしても越えられないといった土蔵の壁に向かってお願いした。
「壁様。お日様よりも、雲様よりも、風様よりも強いあなたに、私どもの婿になっていただきたいのです」
すると、壁は驚いたように、こう答えた。
「なんの、わたしが強いものか。あなたたちねずみにかじられたら、ひとたまりもない。私よりも強いのは、あなたたちですよ」
そこで、ねずみの夫婦は、もういちどとっくりとよく考えることにした。そして、隣の家族の忠吉を婿にもらうことにした。
こうして、ねずみの若夫婦は無事に祝言をあげ、やがてたくさんの子どもたちに恵まれたという。
ところが、どうやって婿を迎えたらいいのかわからない。いやいや、まずもって、誰を婿に迎えたらいいのかわからない。夫婦は一晩かけて、ちゅうちゅうと相談した。そして、同じことならば、この世でいちばん立派なお日様に婿に来ていただいたらどうだろうかと話が決まった。
そこで、ねずみの夫婦は、早起きをすると、東の空に登ったお日様に向かって手を合わせ、それから心をこめてお願いした。「この世でいちばん立派なお日様。どうか娘の婿になっていただけませんか」と。
昇りたてのお日様は、顔を赤らめた。やはり娘の美しさをご存じなのであろうかと、ねずみの夫婦は喜んだ。けれど、お日様はまぶしそうに目を細めて、こうおっしゃった。
「私なんかは、まだまだです。ほら、あの雲がもう直こちらに流れてくる。そしたら私は、たちまち隠れてしまうんだから」
なるほど、ねずみの夫婦が返事をするまもなく、厚い雲が流れてきて、お日様を隠してしまいました。ねずみの夫婦は、相談した。どうやら、この世でいちばんなのはお日様ではなく、あの雲様であるのかもしれないと。そこで、夫婦は雲様に向かって声を合わせた。
「あのお日様さえ隠してしまう、大きな雲様。雨をもたらしてくれる恵みの雲様。どうか娘の婿になっていただけませんか」と。
すると、雲は顔をしかめて笑った。そして、こうおっしゃった。
「私なんかは、弱いものですよ。ほら、風が吹いてきた。風さんにはかないません。とてもとても」
そして、あっという間にあの大きな雲は流れて、消えてしまった。
そこで、ねずみの夫婦は、また相談した。そして、風に向かって声を上げた。声は風に吹き飛ばされて、お互いほとんど聞こえないほどであったが、それでも風様には聞こえたのか、こんな返事が風にのって聞こえてきた。
「私は確かに強いかもしれないよ。でも、壁にはかなわない。どんなに吹いても、あの壁は越えられない。そんな弱い私が婿にふさわしいとは思わないね」
そこで夫婦は、風がどうしても越えられないといった土蔵の壁に向かってお願いした。
「壁様。お日様よりも、雲様よりも、風様よりも強いあなたに、私どもの婿になっていただきたいのです」
すると、壁は驚いたように、こう答えた。
「なんの、わたしが強いものか。あなたたちねずみにかじられたら、ひとたまりもない。私よりも強いのは、あなたたちですよ」
そこで、ねずみの夫婦は、もういちどとっくりとよく考えることにした。そして、隣の家族の忠吉を婿にもらうことにした。
こうして、ねずみの若夫婦は無事に祝言をあげ、やがてたくさんの子どもたちに恵まれたという。