子どものためのおはなし
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鈍と貧

3/1/2011

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上方では、ぐずぐずしていると、「どんくっさいな」と叱られます。「どん」というのは「鈍い」ということですね。動きが鈍くてきちんとできないことを、「どんくっさい」と言うんです。あんまりきれいな言葉じゃありません。
どんくさいことばかりしていると、貧乏になってしまいます。お金が儲かりませんからね。貧乏という言葉は、「貧」という字と「乏」という字からできています。「ひん」は、貧しいということです。「ぼう」のほうは乏しいということです。貧しくて乏しいのは、やっぱりいやですよね。
さて、あるところに、いつも「どんくっさい」と叱られてばかりいる若いもんがおりました。主人はむかし商いをやっていた年寄りですが、もう仕事はやめてしまって隠居しています。若いときに貯めたお金で暮らしているんですね。仕事をしていませんから、貯めたお金は減る一方です。だから、このご隠居さん、いつもそのことを気にしていました。「このままやと、どんどん貧乏になってしまうわ」と。
若いもんの方は、いたってのんきにやっております。年寄りの小言はうるさいけれど、そこは隠居の世話ですから、大店で使われるよりはずっと気楽な仕事です。そんなふうにのんびりやっていると、「どんくっさい」と叱られます。
「おまはん、汁の鰹をちゃんとすくってないやろ」
「残ってましたかいな」
「残っとるも何も、出汁ガラばっかりやないか」
「すんません」
「貧すれば鈍すというんや。気をつけへんとこんなことでも人様から笑われるようになる」
こんな小言が飛び出します。
さて、ある日、この若いもんがご隠居さんの前でうっかりと、土瓶を割ってしまいました。
「こらこら、そんな鈍なことをしてもらっては困るな。貧すれば鈍すじゃ」
「いえ、旦那様」
若いもんは、にっこり笑って答えました。
「この通り、どんびん(土瓶、鈍貧)が割れました」
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    えっと、作者です。お楽しみください。はい。

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