子どものためのおはなし
  • Home
  • 出まかせ 日本むかしばなし
  • おはなし会のおはなし
  • ブログ
  • エッセイ

浦島太郎

3/2/2011

0 Comments

 
むかし、丹後の国に浦島太郎という若者がおった。海の幸をとって父親と母親を養っていた。
ある日、「今日は魚を釣ろう」と思って、あちこちで糸を出してみた。けれど、一匹もつれん。貝を拾ってみたりみるめをとったりしたけれど、やっぱり魚が欲しい。
そこで、江島が磯というところで、もういちど釣り竿を出してみた。すると、亀が一匹、糸の先にかかった。
けれど、浦島太郎は、
「かめの命は長いもの。まだまだこの先も生きられるはず。いたわしいから助けよう」
と、亀を海に戻してやった。

次の日、浦島太郎が釣りをしようと岸辺に立っていると、遠くの海の上に小さな船が一艘見えた。きれいな女がたった一人で乗っている。「これはいったいどうしたことだろう」と思って見ていると、だんだんと船は近づいてくる。
「こんな荒海に一人でいらっしゃるなんて、あなたはいったいどういう方なんでしょうか」と、浦島太郎は尋ねた。
女は、こんなふうに、話した。

「あるお方のお供で船に乗っていたのですが、嵐がきて、たくさんの人が波にのみこまれてしまいました。これでは船が危ないからと心配した船乗りが、私をこの小さな船に乗せてくれたのです。けれど、心細くて、鬼の住む島にでもつくのではないかと、途方に暮れておりました。ここで、あなたにお目にかかれたのも、何かの縁でしょう。どうか助けてください」

浦島太郎は、泣いている女をかわいそうに思って、舫いづなをとって船を引き寄せた。
やがて、女は、落ち着くと、こんなふうに話した。
「私を哀れだと思っていただけるなら、国に送り返してください。このまま知らないこの岸辺にいては、私はどうしていいのかもわかりません。それでは、海の上で流されていたときと変わらないではありませんか」
そして、また、泣きはじめる。浦島太郎も、悲しくなった。そこで、女が乗ってきた船にいっしょに乗って、沖の方へと漕ぎ出した。

女がこっちだと指差す方へと十日もこいでいくと、女の古里についた。船から上がると、すばらしい御殿がたっている。壁は銀色、屋根は金色に光り、いかめしい門がたっている。まるで天の上の神さまの住まいのようだ。浦島太郎は、口もきけないほどびっくりした。

驚いている浦島太郎に、女は言った。
「一本の木の陰にいっしょに休んだだけでも縁だといいます。同じ川に流れる水を飲んだだけでも生まれ変わったときには縁を感じるものだと聞きました。まして、あなたのようにはるばるとこんな遠くまで送ってくれたことが、縁でないはずはありません。このように縁のあるあなたと、夫婦になって、いっしょにここで暮らしたいと思います」

細やかに話す女に、浦島太郎は、ことわることができなかった。そして、二人は夫婦になって、とても仲良く暮らしはじめた。
女が言う。「ここは、竜宮城というところです。このお城のまわりには、美しい庭があります。ぜひご覧ください」

そこで、東の戸を開けてみると、春の景色が広がっている。梅や桜が咲き乱れ、柳の若葉が春風に揺れている。鶯の声がすぐそこで聞こえている。

南の戸を開けてみると、垣根には卯の花が咲いている。池には蓮の花が咲き、水鳥がさざ波をたてて遊んでいる。緑の木は葉をしげらせ、夕立ちが上がったと思ったら、蝉の声が賑やかに聞こえる。

西の庭は、秋のようすで、紅葉の色も鮮やかに、菊の花に露がおりている。どこかで鹿の声もする。

北には冬が広がって、真っ白な雪をかぶった山が見える。枯れ木の林では炭を焼く煙があがっている。

こんなおもしろい景色を見ていると、いつまでたっても、飽きることがない。楽しく遊んで暮らして、あっという間に三年がたった。

そこで、浦島太郎は、こんなことを言った。
「三十日だけ、旅に出てもいいだろうか。なにしろ、父と母をそのままにして、出てきてしまった。三年もたってしまって、父と母のことが心配になってきたのです。いちど帰って、安心させてきたいのです」

すると、女は、かなしそうに言った。
「この三年、あなたとはずっと仲良く暮らしてきました。ちょっと姿が見えないだけでも、どうしたんだろうと心が乱れたものでございます。それなのに、三十日も長いあいだお別れしなければならないなんて。もうこの世ではお会いできないような気がします」

さめざめと女が泣くのを、浦島太郎は、不思議に思った。けれど、やがて女は、涙を拭くと、こんなことを言った。
「本当のことを申し上げましょう。私は、江島が磯で、あなたに助けていただいた亀でございます。あのときのありがたさが忘れられず、夫婦になって、あなたをお助けしたいと思ったのです。夫婦の縁は、生まれ変わっても変わらないといいます。次の世に生まれ変わりましたら、必ず、私と夫婦になってくださいませ」

浦島太郎が驚いていると、女は小さな箱をとりだした。
「これは、私の形見でございます。決して、開けてはなりません」
そんなふうに言って、浦島太郎に渡したのだった。

縁というのは不思議なものだ。出会うのも縁なら、別れるのも縁だ。会えば必ず別れがくる。出会う縁は、別れる縁だ。
女と、浦島太郎は、歌をうたいあって別れを惜しんだ。

古里の父と母に会いたいと思ったのは、浦島太郎だった。けれど、いまは、女と別れるのがつらい。振り返りながら、船を急がせた。そして、古里に着いてみると、辺りは荒れ果てて、人の住む姿もない。どうしたことかと辺りを見回すと、粗末な小屋がある。
「ちょっとお尋ねします」
浦島太郎が声をかけると、中から八十歳ほどの年寄りが出てきた。
「このあたりに、浦島という人はいませんか」
と、尋ねると、
「また、どういうことで、浦島なんて聞くのかね。浦島とかいう人は、七百年もむかしに、このあたりに住んでいたそうだが」
と、答えた。浦島太郎は、驚いて、ありのままを話した。すると、年寄りは、不思議そうな顔をして、向こうを指さした。
「それが、浦島とかいう人のお墓だよ」
浦島太郎は、泣きながら、草むらをかき分けて、お墓参りをした。ほんのちょっとのあいだと思って留守にしたのに、こんなに変わってしまうなんてと、涙が止まらなかった。
ぼんやりと、海辺の松の木まで戻ってきた浦島太郎は、座りこんで、空を見上げた。これから竜宮城へ戻っても、もうむかしのように女と仲良く暮らすことなんかできっこない。なにもかもが嘘のように思えてしまう。
けれど、浦島太郎は、女のことが忘れられない。あんなに仲良く暮らした毎日が忘れられない。
もう二度と女には会えない。会いたいけれど、会えない。浦島太郎は、女が死んでしまったような気がした。そして、女が、形見だといって渡してくれた箱を思い出した。会えない人なら、死んだも同じだ。浦島太郎には、ようやく女の言葉がわかった。もう会えないと思ったから、形見をくれたのだ。
生きて会えると思うなら、形見の箱は、開けてはならない。けれど、もう会えない人だから、浦島太郎は、開けてはいけない箱を開けた。すると、中から紫色の雲が三本、流れ出してきた。その雲を見ていると、浦島太郎は、急に年をとった気持ちになった。人間だったことさえ忘れてしまうほど、年をとった気持ちになった。

そして、浦島太郎は、鶴になった。遠く、蓬莱の山まで飛んで行って、そこで、長く暮らした。亀は、竜宮で、いつまでも浦島太郎の帰りを待っていた。

いつか時代が過ぎて、鶴も亀も、死んでしまった。けれど、鶴は丹後の国に、浦島明神という神さまになって祭られることになった。亀も、同じところに神さまになって祭られた。だから、いまでは浦島の神社には、夫婦の神さまが祭られている。浦島太郎と竜宮の亀は、こうして約束どおり、生まれ変わって夫婦になった。めでたしめでたし。

だからいまでも、おめでたいときには、鶴と亀をお祝いする。
0 Comments

貧乏神と福の神

2/24/2011

0 Comments

 
昔、あるところに貧しい百姓がおった。まめな夫婦であって、まだ暗いうちから起きてはたらく。田植えや稲刈りの頃などはわらじも脱がずに寝てしまうほど、はたらく。けれど、いくらはたらいても、貧しかった。椀にも膳にも事欠いて、ひとつお膳のひとつ茶碗から二人で飯を食うというありさま。それでも仲のよい夫婦であったので、それはそれなりにしあわせであったのであろう。
ある年越しのつごもりのことだ。貧しい二人にはこれといってすることもない。いつものように仕事をして、日も暮れかけたので今年も仕舞いにするべしと片付けはじめておったところに、みすぼらしいなりをしたやせた男が門口に立った。
「どなたですかいな」
と、この主が聞けば、
「申し訳ないけども、ここに居させてくれまいか」
と答える。嫁が出てきて
「どなたでございますか」
と尋ねると、やっぱり
「すまないのですが、ここに居させてもらえまいか」
と、こう答える。
夫婦は不審に思ったが、こんな時分から余所に行くのもかなわんじゃろうと合点して、
「それならば、なにもないところではあるが、入りなされ」
と、この男を招き入れた。
さて、夜になり、冷めた雑炊でもすするかと夫婦がなべをあけてみると、中は空っぽになっている。それならば芋でも蒸すかとおくどさんに火を入れようとすると、熾がない。それなら水でも飲むかと水瓶をのぞくと、いくらも残ってはいない。
客人の方を見ると、すまなそうにうなずいておられる。力なく笑うと、こう言った。
「わしは、貧乏神やでなあ」
さあ、夫婦は弱ってしまった。貧乏神にとりつかれてはかなわないと思った。ところがあいにくと、家の外は雪になった。いくら貧乏の神様でも、神様をこんな吹雪の中に追い出されるわけはない。しかたないので、その夜はひもじいのをがまんして、年を越した。
さて、次の朝になってみると、昨日の客人の姿はない。夫婦はやれやれとほっとして、わら仕事をはじめた。一区切りついて腰をのばすと、梁の上に見慣れない影があるのに気がついた。なんと、貧乏神様は、夜のうちに梁の上にすっかり落ち着いてしまわれたのだ。
「どうかそこから下りて、出ていってはくれまいか」
すると、貧乏神様は、気の毒そうな顔をして、
「わしらは年のうちは家移りはできないきまりでなあ」
と、おっしゃるのであった。
それは困るので、夫婦はなんとか貧乏神様におりていただこうとがんばった。ハタキではたいてみても、棒でつついてみても、そこは神様、なんともならない。
「これでは、くたびれもうけにしかならん。それより日のあるうちにせんなならんこともある」
夫婦はそう言い合って、その日はあきらめることにした。
それからしばらくは、毎日、頼んだり、拝んだり、脅したりしていたが、そのうち貧乏神様がそこにいるのにも慣れてしまった。どうせ年のうちには出ていかれないということであるのだから、あわてたところでどうしようもない。それよりも、春になれば籾の支度もせねばならない。田んぼも起こさねばならないし、せんざいものの苗も気になる。百姓は忙しくて、貧乏神様などにかかずらわってはおれないのであった。
それにしても貧乏神様の霊験はあらたかで、いくら忙しくはたらいてもちっとも暮らしは楽にはならない。とはいえ、もともとが貧しい暮らしであるからして、いつもより特別に苦しいわけでもない。
「やっぱり貧乏神様がおるとかなわんのう」
と、笑いながら、夫婦は毎日仕事に励むのであった。
そうこうするうちに夏の日照りも乗り越え、秋のとり入れも無事終わり、年の瀬がやってきた。このころになると、夫婦はすっかり貧乏神様のことなど忘れておった。いや、梁の上を見上げれば、確かにいつもそこに、遠慮がちに座っていらっしゃる。忘れるどころではない。けれどそれは、相変わらず米びつに米がないことと同じであって、ことさらにとりあげてどうこういうことではなくなっておったわけだ。
そして相変わらず貧しい夫婦は、年越しのつごもりのその日も、いつものようにはたらいておった。なにもない家であるから、かえって、世間のあわただしさなど、どこ吹く風である。日も暮れかけた、雪もちらついてきたというので今年も仕舞いにするべしと片付けはじめておったところに、丸々と太って機嫌のよい男が門口に立った。背中になにやら大きな袋を担いでいる。
「どなたですかいな」
と、この主が聞けば、
「今夜からわしはこの家に居させてもらう」
と、さもあたりまえのように言う。嫁が出てきて
「どなたでございますか」
と尋ねると、やっぱり
「今夜から、わしがこの家にいることになった」
と、こう答える。そして、背中の大きな袋をどん、っと足もとに置いた。
夫婦は不審に思った。そのとき、家の中から貧乏神様がしょんぼりとあらわれた。
「これはこれは、貧乏神様。お出ましとはめずらしい」
と、主が言うと、
「わしはこれから宿替えじゃ」
と、おっしゃる。
「どういうことでありますか」
と嫁が尋ねると、
「福の神様がいらっしゃったら、わしはここにはおられん」
と、太った男の方を恨めしそうに見る。
なるほど、これが福の神様であるかと、主は合点した。
「それで、この雪の中、どちらに行きなさる」
と尋ねると、
「もっと貧しい家を探すんじゃ」
と、哀れな声を出す。
夫婦は、気の毒になった。
「せめて雪がやむまでおらっしゃれ」
と言うてみたところ、福の神様が顔をしかめた。
「年が明けては家移りができん。さあ。さっさと移りなされ」
夫婦は顔を見合わせたが、やがて神妙に申し上げた。
「お言葉ではございますが、あなた様は後から参られたお方。こちらのお方様は先からおられます。ここは、先のお方様を追い出してあなた様をお迎えするというわけにはいかんのではありませぬでしょうか」
福の神様は、きょとんとした顔で主を見た。主は続けて言った。
「こちらは貧しいあばら屋でございます。どうして福の神様をお迎えすることなどできましょうか。身にあまることでございますので、どうかお許しを」
福の神様は、なかなか話が飲み込めない様子であったが、やがて腑に落ちない顔で、
「それでは、余所に行ってよいのだな」
と、念を押した。そして、首をかしげながら、雪の中を去っていった。
「さ、中に入りましょう」
と、貧乏神様に嫁が声をかけた。貧乏神様はきょとんとしていたが、やがてようすが飲み込めると、おいおい泣きだした。
「どうされましたか」
と、嫁が心配そうに聞くと、
「こんなに嬉しいことはありません」
と、頭をすりつけんばかりに喜んだ。
主のほうは福の神様を見送っておったが、ふと、足もとに大きな袋を福の神様が忘れていかれたのに気がついた。
「これは、忘れ物。さて、呼び戻したものか」
と、主が言うのに、貧乏神様が答えた。
「それは、この家への贈り物であります。ほかの家には持って行かれないものと決まっているので、福の神様も持っていけなかったのでしょう」
そこで主が袋を開けてみると、中には年越しのご馳走がぎっしりつまり、さらにその下に宝がごっそり入っている。そこで夫婦は、にわかに年越しの膳をいただくことになったが、
「どうか貧乏神様もお食べなされ」
と、貧乏神様に膳椀をすすめるのであった。
その夜、三人は腹一杯のご馳走を食べ、しあわせな夢を見て温かく休んだ。
さて、夜が明け、年が明けた。早起きをした夫婦は、貧乏神様の顔のつやがよくなり、一晩で少しは肉もついたのに気がついた。そこで、貧乏神様に勧めて行水を使ってもらい、髭を整え、福袋の中から取り出した新しい衣を着せかけた。貧乏神様にはなにやら威厳も備わって、去年までのおどおどしたところもなくなった。
夫婦はこの貧乏神様を神棚に祭って、その年も一生懸命はたらいた。はたらきがよかったおかげか、お天道様の具合がよかったのか、それとも福袋の宝のおかげであろうか、秋にはこれまでにないほどの豊作に恵まれた。その頃には貧乏神様も丸々と太り、機嫌もすっかりよくなった。もう貧乏神様などと申し上げては失礼に感じられた夫婦は、それからはこの神様を福の神様と呼ぶようになった。
そして、それからは、この福の神のいる家には、次々としあわせが舞い込み、子孫代々、末永く豊かに暮らしたということである。
0 Comments

    作者について

    えっと、作者です。お楽しみください。はい。

    過去エントリ

    June 2011
    May 2011
    March 2011
    February 2011

    カテゴリ

    All
    動物
    家族
    怪異
    生活
    町方
    神仏
    笑い話
    縁起
    農村

    RSS Feed

Powered by Create your own unique website with customizable templates.