あるところに、正直であるが、貧しい男がおった。正直というと聞こえがいいが、どちらかというと融通のきかん、堅焼きの焼き冷ましのような男でなあ。あるとき、隣の者がちょっと鍬を貸してくれというので貸したら、泥だらけのままで返ってきた。ちいとは洗って返すもんじゃと言ったら、「いや、はじめについていた泥をもらいっぱなしではわるいと思うて、わざわざ泥をつけて返した」という。そんなことはせんでええんやと言うたのだが、今度、鎌を貸したら、ピカピカに研いで返してきた。感心なことと思ったら、なにやら桶いっぱいの汚い水も持ってくる。どういうことかと聞いたら、「研いで減った分をもらいっぱなしではわるい。研ぎ汁を返そう」という。なんとも堅い、堅すぎる男であった。
こんなことをしているから、この男、ひどく貧しかった。しかし、それを気にもせんと、毎日仕事に精を出しておった。
そういう真面目な様子を神様が見たんじゃろうな。ある夜、男は夢を見た。夢のなかで神様が、「ひとつお前に福を授けてやろう。近いうちに天の福がお前のところにやってくる。これはお前のものだから、はばからず受け取るがいい」と言われた。目が覚めて男は不思議な気持ちになった。そこで、庄屋様に、どういうものでしょうと尋ねてみた。すると、庄屋様は、神様がそういうのであれば受け取らなければいけないのだろう、と仰った。お寺の坊様に聞いても、「福は授かりものだから、受けておくがよい」と言われる。隣の者に聞いても、同じことを言う。そうであればそうなのだろうと、堅い男も得心をした。
そして何日かたったとき、畑を耕しておると、鍬が固いものに当たる。何だろうと掘り起こしてみると、小さな壺が出てきた。壺の蓋はきっちりと閉めてあったが、よく洗って周りのものをとりのけると、苦もなく開いた。中に入っていたのはたくさんの金の粒だ。男はしばらく頭をひねっておったが、やがてこの壺に元のようにきっちりと蓋をすると、ていねいに元のように埋め戻した。
これを隣の者が見ておった。この者は、悪気はない男ではあるが、お調子者でな。調子に乗ってすぐに遊んでしまうので、やっぱり金のない貧乏者であった。さて、このお調子者は、堅い男に向っていった。
「なにやらお宝が出たようだが、それはこのあいだ主が夢に見た天の福ではないのか。ならばなぜ埋め戻す。ありがたく受け取ればよいではないか。そして良い酒でも買って祝えばよいではないか」と。もちろん祝いがあれば隣のお調子者も招かれるはずである。お調子者は、涎が出そうであった。
けれど、堅い男はこう言った。「おれが授かるのは、天の福だ。この壺は地面から出てきたから地の福にちがいない。地の福を頂けるなんて話は聞いておらんから、これはもらうわけにはいかんよ」と。
お調子者がいろいろ言っても、堅い男の気持ちは変わらなかった。
日が傾いて堅い男が家に帰ると、お調子者は肩をすくめた。それから、堅い男の畑に入ると、さっきの壺を掘り返し始めた。「せっかくの授かりものの福をいただかないとは罰当たりめ!」とつぶやきながら。
やがて鍬は、壺に当たった。当たり所が悪かったのか鍬の刃は欠け、柄が折れた。それでもかまわず掘り続けると、さっきの壺が出てきた。お調子者はいそいそとそれを抱えて家に帰った。
さて、これで思いっきりうまいものが食えると、お調子者は喜んだ。そして、蓋を開けて、中の金の粒を数えようとした。ところがどうだ、金の粒と見えたものは、兎の糞の粒ではないか。お調子者はがっかりした。がっかりして、だんだん腹が立ってきた。そこで表に出ると、隣の堅い男の家めがけて、壺を投げつけた。
壺は、軒の隙間から、堅い男の家の中に飛び込んだ。梁に当たって砕け散った。砕け散って、中に入っていた粒も、壺のかけらひとつひとつも、みんな輝く金になって家の中にバラバラと落ち広がった。
飯を食っていた堅い男は、天井を見上げ、そしてあたりを見回した。
「今度は天の福が授かったわい」
そう言うと、黄金の粒を集め、それを大切に神棚にあげた。
お調子者の方は、折れた鍬だけが残った。祝いのことなど言う出す気にもなれず、そのまま寝込んでしまったそうな。
こんなことをしているから、この男、ひどく貧しかった。しかし、それを気にもせんと、毎日仕事に精を出しておった。
そういう真面目な様子を神様が見たんじゃろうな。ある夜、男は夢を見た。夢のなかで神様が、「ひとつお前に福を授けてやろう。近いうちに天の福がお前のところにやってくる。これはお前のものだから、はばからず受け取るがいい」と言われた。目が覚めて男は不思議な気持ちになった。そこで、庄屋様に、どういうものでしょうと尋ねてみた。すると、庄屋様は、神様がそういうのであれば受け取らなければいけないのだろう、と仰った。お寺の坊様に聞いても、「福は授かりものだから、受けておくがよい」と言われる。隣の者に聞いても、同じことを言う。そうであればそうなのだろうと、堅い男も得心をした。
そして何日かたったとき、畑を耕しておると、鍬が固いものに当たる。何だろうと掘り起こしてみると、小さな壺が出てきた。壺の蓋はきっちりと閉めてあったが、よく洗って周りのものをとりのけると、苦もなく開いた。中に入っていたのはたくさんの金の粒だ。男はしばらく頭をひねっておったが、やがてこの壺に元のようにきっちりと蓋をすると、ていねいに元のように埋め戻した。
これを隣の者が見ておった。この者は、悪気はない男ではあるが、お調子者でな。調子に乗ってすぐに遊んでしまうので、やっぱり金のない貧乏者であった。さて、このお調子者は、堅い男に向っていった。
「なにやらお宝が出たようだが、それはこのあいだ主が夢に見た天の福ではないのか。ならばなぜ埋め戻す。ありがたく受け取ればよいではないか。そして良い酒でも買って祝えばよいではないか」と。もちろん祝いがあれば隣のお調子者も招かれるはずである。お調子者は、涎が出そうであった。
けれど、堅い男はこう言った。「おれが授かるのは、天の福だ。この壺は地面から出てきたから地の福にちがいない。地の福を頂けるなんて話は聞いておらんから、これはもらうわけにはいかんよ」と。
お調子者がいろいろ言っても、堅い男の気持ちは変わらなかった。
日が傾いて堅い男が家に帰ると、お調子者は肩をすくめた。それから、堅い男の畑に入ると、さっきの壺を掘り返し始めた。「せっかくの授かりものの福をいただかないとは罰当たりめ!」とつぶやきながら。
やがて鍬は、壺に当たった。当たり所が悪かったのか鍬の刃は欠け、柄が折れた。それでもかまわず掘り続けると、さっきの壺が出てきた。お調子者はいそいそとそれを抱えて家に帰った。
さて、これで思いっきりうまいものが食えると、お調子者は喜んだ。そして、蓋を開けて、中の金の粒を数えようとした。ところがどうだ、金の粒と見えたものは、兎の糞の粒ではないか。お調子者はがっかりした。がっかりして、だんだん腹が立ってきた。そこで表に出ると、隣の堅い男の家めがけて、壺を投げつけた。
壺は、軒の隙間から、堅い男の家の中に飛び込んだ。梁に当たって砕け散った。砕け散って、中に入っていた粒も、壺のかけらひとつひとつも、みんな輝く金になって家の中にバラバラと落ち広がった。
飯を食っていた堅い男は、天井を見上げ、そしてあたりを見回した。
「今度は天の福が授かったわい」
そう言うと、黄金の粒を集め、それを大切に神棚にあげた。
お調子者の方は、折れた鍬だけが残った。祝いのことなど言う出す気にもなれず、そのまま寝込んでしまったそうな。