子どものためのおはなし
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「大工と鬼六」について

5/18/2011

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「大工と鬼六」は、私が初めて読んだおはなしのひとつです。子どもの頃、学研の「母と子の世界名作絵物語全集」というコンピレーションが生家にありました。当時の出版界ではなにかによらず全集ものが流行していましたからね。そのなかの「日本名作ものがたり」という巻に、この「大工と鬼六」のおはなしがのっていました。そして、幼児だった私はそれに魅了されてしまったのです。
そのほかには、桃太郎やかぐや姫など、定番の物語が収録されていたと思うのですが、この「大工と鬼六」だけは子ども心に相当異色な作品に感じられました。ありきたりのお伽話とは全くちがった登場人物の心理の動きが描かれているような気がしたのですね。あっさりとした挿絵にあきたらず、その向こう側にもっと何かがあるような気がして、渦巻きの絵を食い入るように眺めたものでした。
そんな思い入れがあるせいか、息子が小さい頃に「おはなし」をせがまれたとき、この「大工と鬼六」はいつもとんでもない長編になるのがふつうでした。今回ここに書いたものも、かなり長くなっています。どうしても力が入ってしまうのですね。
ただ、息子に語るときには、途中、もっとユーモラスにすることもありました。最後の名前当てでは、息子の名前や身近な人の名前を言ってみたり、あるいはグリムの類話から借りてきて「ルンペルシュティルツヒェン!」と叫んでみたりと、それはそれでお楽しみの場面でした。
このおはなしでは舞台を宇治にしましたが、一般にはどこと特定することはないようです。なんとなく私の頭の中には宇治の話であるという感覚ができてしまっているのでそうしましたが、根拠はありません。山の中に迷い込む場面などに何度か訪れた宇治の風景を遠い記憶を頼りに利用しました。そういう意味でも、思い入れのあるおはなしです。
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「餅争い」について

5/17/2011

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このタイプのおはなしを初めて知ったのは、福音館の「こどものとも」シリーズの「さるとびっき」という絵本でした。そのおはなしでは、さるがびっき(ひきがえる)を騙した挙句にその報いを受けるという勧善懲悪式にストーリーが進行します。けれど、そんな悪者の猿とつきあっている蛙は、いったい完全に無垢だといえるのでしょうか。この「餅争い」では、餅を自分たちで搗く「さるとびっき」とは異なって、猿と蛙はぐるになって庄屋さまのところで搗きあがった餅を奪ってきます。蛙も決して清廉潔白なわけではなく、猿の片棒を担いでいるのですね。そうなると、猿に熱い餅を投げつけた蛙の行動にも、別の意味が浮かんでくるような気がします。虐げられた弱者の思い余っての反逆、というような綺麗事ではないと思うのですが、いかがでしょうか。
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「河童の手紙」について

5/16/2011

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現代的なイメージでは河童は愛らしいいたずら者ですが、この「河童の手紙」では、人を食ってしまうおどろおどろしい妖怪として描かれています。そうなんですよね。河童は、夏に子どもが川で泳いでいるときに水底深く引きこんで殺してしまうということで有名な、相当な悪役です。愛嬌のあるイメージは、比較的近年のものなんでしょう。
このおはなしは、最後に「宝」を授かった旅人がどうなるのか、その結末まで語られるのがふつうです。多くのパターンではハッピーエンドですね。けれど、ここではそこをぼかしています。これは、物語全体のおどろおどろしい雰囲気をつないでいくためです。必ずしもハッピーでないエンディングを想像していただけたら、この企みは成功したと言えるのですけれど。
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「どっこいしょ」について

3/10/2011

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「どっこいしょ」は、割とバリエーションのある話です。ここではごちそうを「だんご」としてありますが、これがもっと別の料理だったり別の名前だったりすることもあります。いい間違える言葉も「どっこいしょ」ではなく、別の言葉であることも多いようです。
私は、このおはなしを子どもの頃、「日本のわらい話」というようなタイトルの子ども向けの本で読みました。それ以来、何度も忘れ、何度も新たに読んだり聞いたりしながら、現在に至っています。親から子へと一筋の糸のようにおはなしが語り継がれた時代とはちがって、現代はこんなふうに、いろいろなところから流れ込んでくるおはなしを自分の中で咀嚼し、自分のものにしていくことになるのだろうなと、そんなことを思いました。
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「蛙の鳴き声」について

3/9/2011

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「蛙の鳴き声」は、動物譚のひとつで、雨が降ると鳴く蛙の習性を題材にしたものです。町の生活ではあまり蛙の声を意識することはありませんが、田舎に住んでいると、うるさいほどに蛙の声がするものです。以前、田んぼの真ん中の小屋に住んでいたとき、5月頃だったと思うのですが、猛烈な蛙の声を毎晩のように聞いていたものです。それがある日、ピタリと止まりました。風景には何の変化もありません。ただ、蛙の声だけが止まったのです。
おそらく、田植えを前に、除草剤の散布をしたのでしょう。突然の変化に、なにやら心底、おそろしさを感じたのを覚えています。
身近な動物、小動物が消えていくと、おはなしもだんだんとしにくくなっていくように思います。
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「琵琶の淵」について

3/5/2011

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「琵琶の淵」は、災厄を予言によって回避するというパターンの物語です。類似のおはなしには地蔵の顔が赤くなったら津波が来るという伝承を信じて助かった年寄りの物語があります。2つのはなしの違いは、予言を受け取った当人が助かるのか、滅ぶのかというところです。
このおはなしは多くの人を助けるために自らの命を失うという悲しい話です。その自己犠牲は尊いものだと思いますが、同時にできることなら自分も一緒に助かりたいと考えるのは自然なことでしょう。琵琶法師は禁忌を守って言葉としては危機を伝えないのですが、それでも音楽で実質的に伝えてしまったのが命取りになったわけです。
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「天道さんの金の綱」について

3/3/2011

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この「天道さんの金の綱」は、「鎖」と「腐り」をかけた駄洒落だけで成り立っているようなおはなしです。けれど、「天が言葉を聞いてくれる」という前提を立てることで、笑い話ではなく、もっとシリアスな話になっています。
言葉が力を持つという日本古来の考え方に、言葉の音の持つ二重性が絡んでくるわけです。この「ことば」がテーマのおはなしの中に、言葉を喋らない幼女が登場します。これはポイントだと思ったのですが、結局、私はこの子にもセリフを与えてしまいました。なかなかうまくいかないものです。
このパターンの多くのおはなしでは山姥は死んでしまうのですが、ここでは腰を打って退散したことにしておきました。寝物語にあまり悲惨なイメージもどうかと思ったので。このあたり、子どもにはかえって面白くないかもしれません。
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「浦島太郎 」について

3/3/2011

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この「浦島太郎」は、御伽草子所収の「浦島太郎」を下敷きにしたものです。絵本なんかで流布している浦島太郎とはだいぶちがうのですが、どうやらこっちのほうが(書かれた文学としては)古い形のようです。現代語訳というのではなく、あくまで自由に書き起こしています。歌を訳しても面白くありませんから。
特に、ここでは「縁」ということを強調しました。なんとなく、それが浦島明神の縁起としてふさわしいと思ったからです。
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「鈍と貧」について

3/2/2011

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ずいぶんむかし、縁あって立ち寄った喫茶店のマスターが言っていました。「うちはビンと棒ばっかりだよ」と。貧乏に引っ掛けたつまらないダジャレですし、そのマスターとは以後二度と会うこともなかったのですけれど、なぜか記憶にこびりついてしまっています。そういう記憶が、この土瓶を割った話に結びつているんでしょう。「祝い直し」という類型のおはなしだそうです。落語にもこういうネタはよくありますね。
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「貸し椀の淵」について

3/1/2011

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おはなしの中にも書きましたけれど、日本の「むら」いわゆる自然集落は、実に多様です。都会に住んでいる私たちは「村」というと「市町村」という単位の地方自治体を思い浮かべますが、田舎で「むら」(私は区別するために平仮名書きにします)といったら、自然村落のことです。かつては、これは「字」として公式に存在を認められていましたが、字が多くの住所表記から消え、たいていは「自治会」という括りでしか残らなくなりました。そして、自治会は、都会では「何町何丁目自治会」のようにほとんど行政的な区割りで決められます。自然村落を単位としたものとは感覚がすっかり異なってしまっています。
農村でも、全国的に「むら」と自治会はかぶっていません。結局、「むら」は、住んでいる人の感覚にしか残っていません。それでも厳然として存在しているわけです。
この「貸し椀の淵」には「竹田川」のような実在の地名を出しましたが、これは純粋に架空のおはなしで、特にどこの伝承というわけでもありません。このパターンのおはなしは中部地方に多く伝わっているそうです。
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